品格のある女性

『80代の今が最高と言える』感想。失われる若さを惜しむよりもカッコいいシニアを追いかけたい。

今回は、川崎淳与さんの著書『80代の今が最高と言える』の感想です。

川崎さんご自身でも『最高』と言われるように、最高に輝いて魅力的な80代。

私が憧れ尊敬する女性はシニア世代の方が多いのですが、川崎さんもそのお1人。

シニア世代に強く憧れる対象がいるということは、失っていく若さを嘆くことよりも遥かに有意義で素敵なことだと私は思います。

川崎さんは南青山のマンションにあるギャラリー『ギャルリーワッツ』のオーナー。

さまざまなジャンルのアート作品を扱い、期間限定の企画展を精力的に行われてきました。

川崎さんに憧れている人はとても多い。

いつかはギャルリーワッツで企画展をと願うアーティストさんも多いそう。

何しろ最高にかっこ良く、高い審美眼を持っているだけでなく、とても愛情にあふれた温かい人柄だから。

今年で82歳とのことだけれど、私が初めてギャラリーでお目にかかった時も既に80を超えられていたと思います。

その時は、あまりのカッコ良さと洗練された美しさに固まりました。

それは『実年齢よりも若く見える』といった美魔女的な美しさではなく、常に自身を磨き続け、良い人生経験を重ねてこられた心の豊かさが表面ににじみ出たような美しさでした。

いつお会いしても目を見張るのがその個性的なファッション。

ふわふわの見事なグレイヘアに、革ジャンやメタリックカラーなロングブーツ、アートジュエリーなど、個性の強いアイテムを完全にご自分のものとして着こなしておられました。

ある時もニットに大振りなブローチを付けられていて素敵だなと思ったら、なんと段ボールを使ったアート作品だったり。

私もその段ボールのジュエリー作家さんのファンになり、企画展の時はお邪魔して勇気を出して1つ作品を購入しましたが、いまだ身に付ける勇気が出ません…。

私のような中途半端な年齢で無難なファッションの人間では負けてしまうような、強い存在感のあるアイテムをいとも自然にカッコよく身に付けてしまう方なのです。

長い人生のあいだ自己研鑽を続け、センスを磨き続けてきた人だから奇抜なファッションも魅力的に着こなしてしまうのでしょう。

若い人間にはどうあがいても太刀打ちできない本物のカッコ良さというものを、川崎さんにお目にかかって初めて実感しました。

そんなとんがったファッションをされていると普通は近寄りがたいものですが、川崎さんは愛情深くやさしさにあふれていて、それがオーラとなってにじみ出ているような印象がします。

たまにギャラリーを訪れてお話を伺う程度だった自分でもこれほど惹かれるのだから、お付き合いのあるアーティストさん達や周囲の人々からも本当に慕われ信頼されています。

川崎さんとギャルリーワッツの事を教えてくれたのは、私の習い事の先生ですが、私が尊敬する先生もが心底慕って憧れている様子から、お会いする前から本当に優しく素敵な方なんだろうなと思っていました。

実際にお会いすると、本当に誰に対しても愛情深く優しいかたなんだなと身に染みてわかりました。

私が以前段ボールジュエリーの企画展にふらっと訪れた時、私は心身を病んで休職に入ったばかりでした。

医師から気分転換に好きな場所に出かけると良い、とアドバイスを受けてもどこにも行く気がしなかったのに、ギャラリーからのDMを見て自然と足が出向いたのです。

前にも何度か訪れていましたが、その時は私1人しかいなかったのもあり、作家さんも交えてずっと優しく話をし続けて下さいました。

病気の事も休職の事もくわしくお話したわけではないのに、何か察されたように控えめに元気づけて下さった優しさを今でも思い出します。

本の見どころ

この本ではそんな川崎さんがどんな人生を送られてきたのか、どんな経緯や心の変化があってギャラリー経営を志したのか、といったことが美しい写真と共に詰め込まれていて、何度読み返しても心に栄養をもらえます。

本の中で語られるエピソードで私が特に感銘を受けたのは、若いうちからアートやギャラリーの仕事に携われていたのではなく、普通の主婦として子育てがひと段落してから、ご自身の進むべき道を探し始めたという点。

ご自身の道を探して迷い悩みぬいた末に、ギャラリーオーナーになってアーティストたちを応援するという道を見出された時、川崎さんは60歳だったそう。

そこから半年後にはご自身のギャラリーをスタートさせるという情熱と行動力に圧倒されます。

普通だと30代、40代と年を重ねるほどに年齢を言い訳にやりたいことを諦めてしまいがちですが、いくつからでも挑戦できるのだという事を教えてくれました。

今の華やかなお姿からは想像つきにくいことですが、決して順風満帆ではなく、幼い時には戦争も体験し、その時代の多くの女性が選択肢を制限されていたように大学進学も教師になる希望も諦めなくてはならなかった。

専業主婦として子育てを終えてから、いざ自立して自分の道を探し始めても、これだというものになかなかたどり着けず、ずっと悩み苦しまれていたことが綴られています。

ただセンスが良くオシャレでカッコ良いという表面的な魅力だけでなく、人間として深い魅力があるのは、それまでの人生で苦しいこともたくさん経験しながら家族や友人、周りの人を大事にしてこられた積み重ねがあるからなのでしょう。

この本を読んでいても、先生から川崎さんのエピソードを聞いていてもそう感じます。

ただ写真をながめているだけでも眼福な一冊です。

そしてこの本が出来上がった頃から、すでに川崎さんは病床におられます。

ガンがみつかり、闘病生活をされているのです。

けれど決してあきらめず、ご病気も含めてまだまだ成長の途上だと前向きに捉えられている川崎さんの姿勢に胸を突かれ勇気をもらいました。

多くの人が回復を祈り、待っているので、どうか乗り越えて戻ってきて欲しいと願います。

それではまた。